原文:AnalogMan/Mike sanに対する雑誌インタビュー記事 共著:AnalogComputer/CAMTAC/RE-J
(日本語意訳および訳注は、実際の AnalogMan / RE-J の共同作業および友人関係に基づきます。)
♪前書き♪: 2006年9月9日から3度目の渡米によりAnalogMan/Mikeさんに再会し、AnalogManオリジナルのディストーションペダルに関する共同作業の後Jim Weider宅に訪問して音の比較と意見交換、その他数々のよもやま話と情報交換を行ってきました。AnalogMan/Mikeさんも、AnalogManのスタッフ・ヘルパーのみんなも、前回・前々回と比べると、とてつもなく忙しくなってしまいましたが、とにかくみんな元気でなにより。
そして実に幸運だったのは、かの有名なギターヒーローのギターヒーローJeff Beckのライブステージと、スライドギターの名手Sonny Landreth、それぞれのショーをAnalogMan/Mikeさんと一緒に見に行くことができたことで、彼らの素晴らしいギタープレイに大満足しました。とりわけ、Jeff Beckはベストヒットメドレーのような選曲で、実に活き活きとギターを弾いており、名作アルバム「Blow By Blow」@1975年と「Wired」@1976年から、私の大好きな名曲をほとんど演じてくれ大感動!この二つのアルバムを再度聞きなおしているのですが、とてつもなく説得力のあるエフェクトサウンドが満載されており、30年前のVintageペダルの持つ音の太さや、魅力的な音色を再認識しました。Analogならではの音の復刻、Vintageペダルと次元を同じくする更なる良い音を目指してがんばらねば!
それでは、長文ですが以下の記事をお楽しみください。
1)資料を読むと、東京で仕事をしている時にヴィンテージ・ギターに興味を持つようになったとあります。それ以前はギターという楽器とはどういう関わり方をしていたのですか?
ギターに限らず楽器の演奏はずっとしています。父親がベースプレイヤーでしたので、私も1960年代後半にベースを弾き始め、オルガンやシンセサイザーは1970年代初めに、そしてギターは1970年代後半に弾き始めました。1970年代中頃には、当時登場し始めたシンセサイザーとエフェクトに興味を持つようになり、Hagstorm-II,Maestroフェイザーなど1970年代当時のオリジナル装置をいまだに保有しています。30年程前に、音楽演奏機材の商取引つまり中古器材の売買を始めていたので、自分自身が欲しいと思うものがあったら自分で買いあげて手に入れることができたからです。
2)ご自身でもギターを弾かれる方なのでしょうか?
一度に2〜3分だけですが毎日弾いています。週に70時間程度は働いているので、演奏の腕前は一向にあがりません。でも、Marshallのアンプ、ベースアンプ、ドラムスPA装置の完備された自分の練習室を持っていて、友人と一緒に楽しみながら毎週演奏できる機会を持てるようにしたいと思っています。私は、主にリズムギターを担当していて、歌にもチャレンジしています。みんなで演奏するのは、Zeppelin, Sabbath, Rush, Stones, ZZ top, Cream, Montroseなどの古典的なロックです。
3)どんな音楽が好きですか?好きなバンド、その理由などを教えてください。
若い時から変わらず一番好きなバンドはLed Zeppelinです。Jimmy Pageのリフ、作曲、音色、編曲は本当に驚くばかりですし、Led Zeppelinの音楽はいつの時代に聴いても変わらぬ新鮮味を持っているところが好きです。他にはブルースや昔のGenesis, Pink Floydなど、新しいバンドではWilcoやRadioheadなどが好きです。
4)ヴィンテージ・ギターの売買に携わる中で、次第にエフェクターに興味を持ち、やがて自分でクローンを作り始めるようになったとあります。最初に作ったエフェクターは何でしたか?
一番最初に作ったエフェクターは、1960年代にニュヨークで作られたトランジスター2個のファズ、Sam Ash Fuzzz Boxxのクローンです。最近私は同じものをDavid Gilmourのために修理しましたし、もう少ししたらこのファズペダルのクローン品を販売できると思います。 私が自作した古いクローンと、修理したペダルに関する情報: http://www.analogman.com/graphics/astrotone/astrotone.htm GO!
5)クローンを作るにはエフェクターに関するかなりの知識が必要です。電器回路に関する知識はどこで学んだのですか?
クローン作りを始めた頃、情報収集に役立つインターネット上のフォーラムやWebサイトはまだありませんでしたが、良い書籍はありました。今では、情報も部品もインターネット上で簡単に見つけ入手することができますので、誰でも良いペダルを製作することができます。インターネットが普及する以前は、良いペダルを作るのに必要な部品を見つけることはとても困難なことでした。しかしその頃は逆に、トランジスターのような古いパーツの在庫を持ち販売もしてくれる小さな電子部品屋さんが米国内にたくさんありました。今では、テレビやラジオなどの電気製品が新しいものほど修理できないような構造になってしまったため、そういった小さなお店のほとんどが商売をやめてしまっています。エフェクターと電子回路に関する知識の習得には、Craig Andertonによる書き物や書籍が参考になりました。
6) 東京では、トランジスター・テストのためのソフトウェア・エンジニアをしていたとあります。この仕事での経験は、現在のエフェクター作りに役だっていますか?
いくぶんですが役にたっています。トランジスターのテストのための重要なパラメーターや、トランジスターメーカーとトランジスターの種類について学ぶことができました。Motorola, International rectifier, Micro-Semi, Sprague, Harris, Intersilなどの多くの半導体工場に訪問しましたし、半導体の製造過程を学ぶこともできました。また、日本、シンガポール、マレーシア、イギリス、フランスにも訪れ、各国の製造メーカーからいろいろなことを学びました。
訳注:AnalogMan/Mikeさんがトランジスターに関して詳しいことがSunFace, BeanoBoost, SunLionなどのトランジスターを使ったオリジナルペダルの作成を容易にし、その音を次元の高いものにしていると思います。FuzzFaceやRangeMasterを起源とする古典的なエフェクターの回路は、トランジスター2個または1個の驚くほど簡単な回路ですが、ばらつきのあるトランジスターを測定・選別し、しかるべき位置に慎重に実装することではじめて正しい音が得られます。ゲルマニウムトランジスターであれば、この選別をしない限り、魅力的な音を引き出すことはできません。電子回路を再現しただけの市販品との大きな違い、ギタリストが自由自在に扱える『声』とも呼べる伝説の音色が生まれる理由は、実はこういった地道な作業にあるのです。
7)あなたは様々なヴィンテージ・エフェクターの研究家として知られてますが、特にチューブ・スクリーマーの研究が有名です。ヴィンテージ・エフェクターの中でも特にチューブ・スクリーマーに興味を持った理由は?
当時、スティーヴィー・レイボーン、エリック・ジョンソン、その他のブルースプレイヤーの影響から、TS-808ペダルに対するものすごく大きな需要がありました。1990年には米国でオリジナルTS-9の入手がものすごく難しくなり、また異常な高価がつけられてしまいました。このため、チューブ・スクリーマーが欲しいなら、チューブ・スクリーマーを作ってしまうしかない!こうなったわけです。そこで私は、インターネットの広まる以前、チューブ・スクリーマーのクローン品や回路が利用可能になる以前に、私個人でできる範囲で最大限の研究を行いました。幸運なことに、私自身が始めていた音楽演奏機材の商取引のおかげで、中古のチューブ・スクリーマーをリーズナブルな値段で何台か入手できたので、現物を分析しながら研究をすることができました。あの当時、オリジナルのTS-808を20ドルで入手できたこともありました!
8)アナログマンのHPにはあなたのチューブ・スクリーマーに関する研究成果がアップされてます。あそこまで調べるために、一体何台ぐらいのチューブ・スクリーマーを分析したのでしょうか?
かつては、1年以上に渡りTS-808を約100台程度保有していた時期もあり、それらの全てのTS-808に対する分析結果が私のコンピューターに記録されています。私は、TS-808の製造元であるMAXON製の古いペダルOD-808についても研究しました。オリジナルのMAXON製のペダルはごく最近まで米国では販売されていなかったので、入手はとても大変でした。 私が収集したTS-808とST-9ペダルなどの写真と情報: http://www.analogman.com/graphics/808andST9.jpg GO!
訳注:オリジナルのTS-808および以降2002年までのTS-9を生産したのは、日本が世界に誇る老舗エフェクターメーカーMAXONであり、Ibanezというのは対米向け輸出のための単なるブランド名に過ぎません。これに該当するものは、Ibanezブランドのペダルであっても電池ふたの裏側にMAXONの文字があります。2002年夏頃にTS-9の生産がMAXONから切り離されたようで、それ以降のIbanezブランドのTS-9,TS-808を生産しているのは、我々が知る限りMAXONではありません。MAXONのほうはオリジナルTS-808,TS-9の兄弟かつ直系の子孫にあたるOD-9にJRC4558Dを実装し、トゥルーバイパスの仕様に進化させて生産を続けています。一方Ibanezブランドで現在市販されているTS-9,TS-808は、JRC4558Dの実装をするなどして、TSペダル人気に基づいた復刻風の仕様が実装されていますが、音を左右する部品の選択や細部の仕様に関しては、MAXON製のものほどのこだわりや一貫性がみられず、電子的な回路だけを再現できる製造元が生産しているように見受けられます。こういった実状もあり、TS-808,TS-9に関するオリジナルはMAXON製のものであり、Ibanezブランドの現行品は単刀直入に言えば復刻品というよりもMAXON製のもののコピー品という認識のほうが不思議な感じではありますが現実に合うように感じます。
9)オリジナルのチューブ・スクリーマー、中でもTS-808をどう評価しますか?
我々の分析によると、TS-808とは当時の日本製の良質な部品が相互にバランス良く組み合わせられた偶然の産物であり、日本の技術と部品素材の持つ音の特質を代表しているペダル、という評価になります。TS-808のサウンドに与える部品の影響度を順番に並べれば、#1)オペアンプIC、#2)コンデンサーの種類、#3)ダイオード、#4)スイッチングFETのタイプとなります。これら全ての要素がバランス良く組み合わせられた状態がTS-808の持つ特徴的なサウンドの基本となります。TS-808の研究過程において、TS-808を正しく評価するために我々は慎重な分析を行いました。まずは、これらの部品の種類を見極めた後、別に用意したTS-808と比較対象のTS-808を耳で聞き比べをします。TS-808はトゥルーバイパスの回路ではないので、正確な比較を行うためにはトゥルーバイパスのエフェクター切り替え用スイッチボックスを使う必要があります。2台を直列に接続した場合、電子回路が相互に影響を及ぼし合うため、1台目に接続したペダルの音と2台目に接続したペダルの音を正しく比較できなくなります。さらに厳密な比較をするためには、今どちらのペダルを使っているかという先入観も排除することがベストであり、我々はブラインドテスト用、すなわちLEDの点灯を一時的に行わなくできるエフェクター切り替え用スイッチボックスを使います。Jim Weider("The Band"のギタリスト)が1952年製のテレキャスターを用いて、彼のスタジオ内で実際にこのスイッチボックスを用いて我々のモディファイペダルを比較している写真を見てみてください。 http://www.analogman.com/graphics/jim808test.jpg GO!
訳注:音を構成する要素の「バランス」がとれており、ギタリストにとって扱いやすい状態になっていることこそが伝説のペダル、オリジナルTS-808の音の秘密であり、例えば艶ありのJRC4558Dのような個別の部品単体がペダルの音を支配するのではなく、部品同士の組み合わせが実に重要なのです。ギターのボディー・ネックの素材、フレット・ペグ・ナット・サドルなどの組み合わせと同じで、良質の素材同士の相互作用で素晴らしい鳴りが実現します。なお、オリジナルのTS-808の音と現在市販されているTS-808の音は、我々に言わせればあまりにも『次元』が異なるものです。もちろん、ある種のフィーリングは再現されてはいますが、米国で伝説となったほどの『真』の音の価値は残念ながら実現されていないと思います。
10)TS-808とTS-9の回路的な違いはわずかだと言われています。具体的にはどこがどう違うのでしょうか?
電子回路の設計図という意味合いでの"回路図"の上では、TS-808とTS-9の違いはごくわずかで、出力部にある2本の抵抗の値が違うだけです。しかし、大量生産の過程においては、"回路図"に従っている範囲内で種々の異なる部品が"互換品"として使われます。オペアンプだけではありません。コンデンサー、ダイオード、FETなど全ての部品に関しても、電気的な性能を示す"値"が同じでありながら、きまぐれに安い部品やら旧型の部品が採用されることで、異なる音の"要素"が組み合わされたペダルが生産されていたのです。このため、TS-808とTS-9との間には、回路的な違いがわずかであっても、実際にはその違い以上にサウンドの違いがあると言えるのです。同じ年に生産されたTS-808であっても、オペアンプ、コンデンサー、ダイオード、FETなどが違うということがありえます。オリジナルのTS-9にも同様な違いはあり、古いTS-9には現在のものとは違ったオペアンプが使われています。FETとコンデンサーはTS-9と大部分のTS-808では異なっています。TS-808のボリュームポットは、TS-9のものと異なります。
訳注:電子回路としてみたエフェクターとしては小さな違いしかなくとも、異なる音の"要素"が組み合わせられたエフェクターから得られる『ギタリストから見たフィーリングの違い』はとても大きいものがあります。とりわけピッキングの強弱の使い分けが巧みで、弦のシェイクが強力なギタリストにとってみれば、音の違いは即座に判断可能なほど明確です。なお、この説明に登場するTS-808とはもちろんオリジナルのことであり、現在市販されているTS-808では外観と回路は復刻されてはいますが、オリジナルのTS-808に存在したばらつきの範囲を大きく逸脱し、ずいぶんとかけはなれた音の要素の集合体であるため、大変残念ながら同じTS-808という観点での比較の対象とはなりません。また、2006年時点でIbanezブランドのTS-9にはJRC4558Dが実装されるよう変更されましたので、IbanezブランドのTS-808との音の違いがほとんどない状況になってしまいました。
11)あなたの耳で聴いて、TS-808とTS-9のサウンドの違いはどんな感じですか?
基本的にですが、演奏歴の少ないプレイヤーにとってサウンドの違いはそれほど大きくありません。しかし、良い耳と感性を持ったプレイヤーが、良いギターとアンプを使っている状況ならば、その違いをはっきりと聴き分け、感じ取ることができると言えます。また、TS-808とTS-9のサウンドの違いとは言っても、様々な部品の組み合わせによって同じ年代の同じ機種のペダルの中にさえサウンドの違いが実際あるため、本来はTS-808とTS-9のサウンドと一概には言えないのですが、私が一番好きなTS-808のサウンドの特徴と代表的なTS-9のサウンドをイメージして比較してみます。TS-808のサウンドの特徴とは、適度な粘りと伸びがあり、これにさわやかで少し金属的な倍音が加わり、弦の余韻があまり濁らない点にあります。からっとしていて粘りのあるサウンド、実にバランスがとれた弾きやすいサウンドを持っています。これに対して、オリジナルの古いものを除く新しいTS-9では、飽きのこないTS-808のサウンドと比べると物足りなさを覚える部分があり、これらは音の張りの少なさ、高音のきれいな鳴りの少なさとしてとらえられ、総じて中音域偏重のもこもこしたサウンドであると言われています。
訳注:エフェクターの機種は音の特徴を代表するある種のキーにはなりますが、たくさんの台数生産されたものほど部品の変遷が多くなり、これによる音の個体差が大きくなる傾向があります。また前述のようにTS-808,TS-9に関してはオリジナルでさえいろいろな要素のばらつきがあり、これに復刻品などを加味すると様々なバリエーションが存在することから、機種名だけで音を表すというのは実に難しい状況であると言えます。逆に、オリジナルTS-808の音の違いを聞き分けられる方には、よりよい状態にあるTS-9の音、たとえばごく初期に生産されたオリジナルTS-808とほぼ同じ部品の実装されたTS-9の音や、正しく調整されたTS-9の音は即座に気に入っていただける結果となります。プロの演奏家は、機種でなく納得のできる音がそこにあるかだけを選択の基準とします。なお、現在市販されている多数のTS系ペダルには、我々が知る限り「適度な粘りと伸びがあり、これにさわやかで少し金属的な倍音が加わり、弦の余韻があまり濁らない」ものは存在しないと思いますし、これからもおそらく容易には再現されないのではないかと思います。
12)今でこそ誰もが試していますが、TS-9をモディファイしてTS-808のサウンドにするという考え方は画期的だったと思います。一体どうやってそんなことを思いついたのでしょうか?
これらのペダルの分析をしてみると、TS-808とTS-9には全く同じプリント基板が用いられており、回路の違いもほとんどないことを発見しました。そこで私は、古いTS-9で既にオペアンプにJRC4558Dが使われている場合か、オペアンプ部分にJRC4558Dを新たに実装することが可能であれば、簡単な作業でTS-9を私の好きなタイプのTS-808に近づけることができると知りました。しかし、肝心なJRC4558Dを米国内では見つけだすことができませんでした。そこで私は、JRC4558Dを探し求めてJRの黄色い路線の駅"秋葉原"に訪れ、駅付近にある小さな電子部品屋さん巡りをしました。電気部品街を"JRC4558D"と書かれた紙を持って歩き回り、その紙を店員に見せては尋ねた結果、あるお店に在庫が見つかりました。(その頃は日本語があまりしゃべれなかったのです。)これによって、基本的な部分での808モディファイを提供することが可能となったのです。
次のステップとして、その数年後、日本に住むエンジニアRE-Jさん(http://www.jrc4558d.com)GO!との交流が始まり、彼が日本で行っていたチューブ・スクリーマーと"JRC4558D"を代表とする日本製の部品を使った新しい音に関する研究成果を知りました。
訳注:2001年9月11日のテロ直後から交流がはじまりました。AnalogManの見慣れたWebサイトトップに、「世界貿易センター」「John Lennon」の各写真、そして「Imagine」の歌詞の一節が掲載されていたからです。http://www.analogman.com/blog.htmGO!
その後、我々は友人としての関係で情報交換を行い、より完成度の高いTS-808相当の音、さらにその一歩上を行く音を得るための研究を一緒に行い、結果としてチューブ・スクリーマーとBOSS製のペダルに対する新しいモディファイを開発しました。RE-Jさんは、部品の音を聞き分ける良い耳と、私とよく似た感性を持つエンジニアであり、彼のプロジェクト名であるRE-J (Range Expander - JRC4558D)からおわかりいただけるように、私と同等かそれ以上の"JRC4558D"のファンだと言えます。私にとっての彼は、さながら"オンライン秋葉原"のような存在です。私は"秋葉原"を歩き回らなくても目的の音にたどりつけるようになりました。
訳注:2002年の年明けを迎える頃、メールのやりとりと部品交換によるお互いの技術交流によってTS-9/808/SilverとBD-2/Superが完成し、日米共同リリースのため2002年2月6日にはRE-J Projectを立ち上げ、その後私は各種のモディファイ方法を提供し続けています。多くの場合私が部品選定と組み合わせに関する基本のモディファイ開発を行い、AnalogManで音の微調整と米国向けのアレンジなどがなされます。King of ToneをはじめとするAnalogManのオリジナルペダルに関しては基本的開発はAnalogManで行い、私はヒアリングを通じての部品選定や、より良い音への改善のアイディアの提供を行なっています。RE-J ProjectのモディファイとAnalogManのモディファイは、基本的に同じ技術を基礎としたものではあるのですが、日本のかたのほうが小さい音量でも使える明瞭で繊細な音を好まれること、米国では大音量が許容されダイナミックな音が好まれることから、米国向けのほうがややマイルドな味付けになっている場合があります。フルスペックのモディファイであるTS-9/808/Silver+やBD-2/Pro+など、AnalogManからは提供されていないものもあり、これらは緻密で高度な音にこだわる日本のかた向けの特別なチューンであり、真空管アンプだけでなくトランジスターアンプも多い日本の音楽環境を意識している部分があります。
13)古いJRC4558Dオペアンプの素晴らしさを発見したのは、あなたが最初だと思います。オペアンプの違いによって音が違うことをどうやって発見したのでしょうか?
初期の頃、私自身の耳では音の違いをうまく聞き分けられなかったのですが、その代わり優れたプレイヤーに自分の808モディファイ、つまりJRC4558Dオペアンプを実装したTS-9を販売できた際には、改良された音に対する実に多くの意見や感想を得てその違いを知ることができました。実のところ始めの頃は、私の好きなTS-808の複製装置を作っているという程度の意識で、最も主要な音の"要素"つまり同じオペアンプという部品を搭載すれば、結果として望むものと同じ音が得られるはずだというふうに思っていただけだったのです。しかし、音があまり良くない例と言えるJRC2043のようなオペアンプが搭載されている場合、その音の違いは容易に聞き分けることができました。とても音がうるさく騒々しいギターショーの会場において、我々のモディファイによる音の改良を実演する際には、あえてJRC2043の実装されたTS-9を比較のために使ったりもしました。こういった過程を経て、JRC4558Dが持つ優れた音の特徴をより深く理解するようになりました。
ところで我々は、基本的な音の素性が同じであることから、実のところ古いJRC4558Dと新しいJRC4558Dをあまり区別しておらず、それぞれほぼ共通に使える良い音の要素というふうにとらえています。よほどの特別な目的がある場合に古いJRC4558Dを使ってはいますが、普通の場合は新しいJRC4558Dのほうがより音が安定し、性能も発揮しやすく使いやすいと考えています。これらは、TS-808の音を評価するヒアリングの過程や、モディファイの研究過程で得られた知識だと言えます。
訳注:JRC4558Dが持つ優れた音の特徴とは、中音域部分にある暖かみのある基本音色が、通常耳障りな音が生じやすい限界動作状態や過大入力状態においても変わらず発揮され、音がつぶれてしまうことなく明瞭な音を引き出してくれる動作にあると考えています。これらは、いわゆる電気的な性能として実装されたものではなく、素子にとって本来想定外の過酷な動作をさせた際の極限動作であり、この特性こそが、古典的仕組みで働くエレキギターと真空管アンプとの『相性の良さ』となり、オーバードライブなどのペダルに組み込まれた場合、聴感上における甘く艶のある音色を引き出す役割をはたします。この特性は、艶ありの古いものであるかどうかに関係なく備わる共通の特徴です。艶ありのJRC45558Dでは、濃厚な中音域の圧縮感が加わるかわりに、低音域と高音域が多少削られる傾向があります。
14)歴代チューブ・スクリーマーには何種類かのオペアンプが使用されています。TL4558P、JRC4558D、JRC2043D、TA75558……など、それぞれの音の違いを教えていただけないでしょうか?
一概にオペアンプの音の違いであるとは言えないのですが、JRC4558Dは粘りがある感じで私にとってはTS-808の音そのもの、TL4558Pはフラットな感じ、JRC2043Dは耳に痛く不自然かつ細身の音、TA75558は無機質な音であると思います。
訳注:音抜けの良い正しい部品が使われ、充分バランスのとれた状態のエフェクター基板にICソケットを実装し、ICを交換しながら音を評価しなければ、オペアンプの音の違いは完全には把握できません。また、オーバードライブ動作における音色は、実はかなりの部分、周辺部品であるダイオードとコンデンサーが支配しますので、厳密にはオペアンプの音と言うより、そのオペアンプが回路と他の部品を駆動した音だと言えると思います。
15)オーヴァードライヴ・ペダルにおいて、オペアンプの重要度はどれぐらい高いと考えてますか?
オペアンプは、基本的な回路が良い状態に調整されているという条件下であれば、最終的なペダルの音を細かく調整したり、サウンドの方向付けをするという意味合いで重要です。しかし、オペアンプの交換だけで基本的なペダルの音がなにかしら他のものに変わるというものではありません。オーヴァードライヴ・ペダルにおけるオペアンプの重要度という言葉を、オペアンプがペダルの音全体のバランスを決める効果の度合いだとすれば、例えばオリジナルのTS-808でも50%以下ではないかと思います。
訳注:オリジナルTS-808の音は、艶ありJRC4558Dを実装しただけでは半分も再現されていません。幸いにもJRC4558Dそのものは新しいものが現在も入手でき、音のニュアンスという見地からは同等な音の要素を得ることができますので、オリジナルTS-808のような完成度の高い音を得るためには、オペアンプ以外の要素のほうが極めて重要であると言えます。ただし残念ながら、当時の部品と限りなく近い音色を持つ部品は調達困難であるため、オリジナルTS-808が具備していた音の完成度を、大量生産において意図的に再現することは絶望的に不可能ではないかと思います。
16)主観で構いませんので、今まで体験した中で、最も音がいいと感じたチューブ・スクリーマーはどの時代のどの仕様のものでしたか?
最も好きなのは、1980年初期の(R)モデルにJRC4558Dが実装されていて、パワージャックにナットが取り付けられているタイプのものです。ベストと思えるコンデンサー、ダイオード、スイッチングFETが搭載されているのではないかと思います。常に言えることですが、エフェクターの最初のバージョン、つまり部品が変えられてしまうまでの初期型のものが最も良い音を持っていると言えます。
17)普段はどんな楽器(アンプ/ギター/シールドなど)を使ってエフェクターの音をチェックしているのですか?
ストラトキャスターと1966年製のフェンダー・デラックス・リバーブを毎日のように音のチェックに使っています。シールドケーブルは、とても明瞭な高音域とフラットな中音域を持っているジョージL'sのものです。間違って安物のケーブルを使ってしまった際には、ペダルの音がひどく悪くなってしまい安物のケーブルのせいだとすぐ気づくので、あわててジョージL'sのケーブルに戻します。新しいモディファイや新しいペダルのテストをする時、ストラトキャスター以外に、私自身の所有する1999年製のレスポールR9リイッシュー、1960年製のテレキャスターを使います。テストのためには、多くのペダルの音を悪くしてしまうMarshall JCM800のようなハイゲインアンプやら、自分の1969年Super Lead 100も使います。ヘッドルームの大きなクリーンアンプでテストを行いたい場合には、初期の1965年製フェンダー・ベースマンが実に素晴らしく役に立ちます。私は、これらのどのアンプで使っても良い音を引き出してくれるペダルを目指しているのですが、音を硬質にしてしまうとあるアンプでは音がきつくなり過ぎてしまいますし、逆にあまりにソフトだとあるアンプでは音が鈍くなり過ぎてしまうのです。
18)あなたはモディファイやクローンだけでなく、オリジナル・モデルも開発しています。ヴィンテージ・ペダルの音を再現することにとどまらず、オリジナルのトーンを作り出そうと思い立ったきっかけは?
Jim Weiderが、彼の持つ古いTS-808より良いオーヴァードライブペダルを必要としたことから、我々はKing of Toneを開発することに決めました。2003年のことです。
19)先日、King of Toneの最新ヴァージョンを試奏しました。 あまりにも気持ちのいい音が出るので、いつまでもギターを弾いていたくなりました。まるで、僕のシルヴァーフェイスのフェンダー・チャンプがブラックフェイスに生まれ変わったような錯覚を覚えました。久しぶりに心の底から欲しいと思うほどの逸品でした。気持ちよさの原因は、トーンに自然な艶とダイナミクスが加わるからだと感じたのですが、何か特別な回路が内蔵されているのでしょうか?
King of Tone Ver.4へのコメントをいただきありがとうございます。我々はブラックフェイスのフェンダーアンプの音をイメージしてこのペダルを開発しましたので、アンプのオーヴァードライブサウンドのような自然な音色を実際持っていることでしょう。我々は、Jim Weider所有のブラックフェイスデラックス・リバーブを我々の最終目標として使いました。そのアンプはCesar Diazの手によるモディファイが行われたもので、その音の次元は実に驚くべきものでした。
20)King of Toneは、チューブ・スクリーマーとは違う回路が使われていると聞いています。回路は、あなたがいちから開発した完全オリジナル回路なのでしょうか?
ほとんど全てのオーヴァードライブとディストーションペダルは、1960年頃に作られた最初のオペアンプ応用マニュアルに記載されている標準的な反転増幅回路か非反転増幅回路をその基礎としています。King of Toneも増幅段、音を歪ませるクリッピング部分、トーンコントロールの各部分の組み合わせであり、これらの各部分に対する詳細な調整の結果としてKing of Toneの音の良し悪しが決まっています。我々のKing of Toneと同じ回路・部品を持つペダルは他にはありません。
21)King of Toneの回路を見ると、シンプルなサウンドからは想像もできないほど複雑です。自然なトーンを作るには意外にも複雑な回路が必要ということなのだと思います。ここまで回路を構築するにはかなりの苦労があったのではないでしょうか?
内部の回路はそれほど込み入ったものではありませんが、我々はノイズを最小限にし、プリント基板の配線をできる限り短くするよう慎重な調整を積み重ねました。最初のKing of Tone Ver.4基板ではあまりにも切り替えノイズが大きく、この切り替えノイズの軽減には大変な苦労があったのですが、結果として最終版のVer.4基板をうまく完成させることができました。King of Tone Ver.4の内部には、完全な2台分のオーヴァードライブ回路が搭載されていますので、実際とは異なり複雑に見えているのかもしれません。しかし我々は、部品の数が少なければ少ないほどギターの音が変わってしまうことなく通過し、ひいてはより良い音色が得られる基本となるとの考え方から、我々の開発するペダルの回路をできる限りシンプルになるよう努力して調整しています。これが我々のコーラスペダルの音を実に良くしている理由であり、可能な限り最大限にシンプルで無駄のないコーラス回路になっていながら、最良の音と機能を実現できるような綿密なチューニングも行われた結果でもあるのです。BOSSのBD-2は、オーヴァードライブサウンドを得るために、実に複雑な回路を使っている良い事例であると思います。
22)King of Toneのオペアンプには見慣れないものが使われています。このオペアンプは、JRC4558Dと比べて、どう違うのでしょうか?
我々が採用しているオペアンプはオーディオトーンコントロール回路などに使われる用途で設計されたものです。JRC4558Dと比べると、ほんの少しハイファイな音を持っていますが、良いオーヴァードライブサウンドを得るために必要となる充分な音の暖かみも兼ね備えています。King of Toneで実際に使われているオペアンプとダイオードは、プロトタイプの仕様を私から送られたRE-Jさんが実際にテスト回路を組み、種々のヒアリングテストを経て導き出したもので、King of Toneの開発目標を実現するために最適な組み合わせのものだと言えます。こういった個別の部品の選定以外にも、King of Toneの音を独自のものにする斬新な音の改善のアイディアがいくつか組み込まれています。なお、実のところKing of Toneでは、ICソケットを使ってオペアンプが実装されていますので、ユーザーの好みによってKing of ToneにJRC4558Dを使ってみることができるのです。フェンダーギターでブルースを演じるような場合、King of Tone の中でさえJRC4558Dは実に良い音を引き出してくれます。
訳注:King of Toneも、TS-9/808/Silverなどのモディファイも、私がかかわって音のチューニングを行なっている兼ね合いで、きっと『和食』の要素が多々あることでしょう。素材を活かして調理し、そっとさりげなくだしを加え、そして最後に隠し味で整える和食。体に優しく食べ飽きることのない和食の味わいと、耳に優しく心に残るフレーズを持ち味とする和食的ペダルの音色は、ある意味とても共通している『趣』があるように思います。
23)King of Toneのブースト・チャンネルは、アンプのトーンそのままに音量だけがブーストされます。とは言え、入力された信号をただブーストしているわけではないと感じました。耳障りな超低域や超高域はブーストされないように思います。意図的にそういう回路にしてあるのではないでしょうか?
良いオーヴァードライブペダルは、音の締まりを損なわないために、ほんの少しだけ低音を削る必要があります。また同時に、高音を滑らかに送り出す必要もあり、我々のCLEAN BOOSTはこのセッテイングを実現しているだけで、同時にDRIVEコントロールで音の厚みを与えることもできるようになっています。
24)King of Toneを弾いたときに最も気持ちよかったのが、メジャー7thコードを弾いたときでした。他のたいていのペダルでは、ドライヴを上げると音がつぶれてしまい、メジャー7thコード特有の繊細なコード感がきちんと出ません。King of Toneを開発するにあたっては、コードの音をしっかり出すことを念頭においたのではありませんか?
はい、Jim Weiderは単純なコードを使いませんが、普通のペダルではリングモジュレーターのような濁った響きが聞こえてしまって音をうまく再現できない奏法、ダブルチョーキングを多用するのです。このため、我々はKing of Toneの音を可能な限り透過にし、全ての音楽的なサウンドと演奏フィーリングが音として引き出せるように工夫しました。私は、例えば市販のBOSS SD-1にあるような、ばりばりした耳障りな音や、紙を引き裂くかのような耳に痛い音が好きではありません。
訳注:ちゃんとしたコードの音を引き出すことは、現在市販されている多くのペダルが苦手とするところですが、オリジナルのTS-808や、ごく初期のBOSSのOD-1などでは、アンプと同程度かそれ以上に分離の良い音をもっていました。
25)King of Toneの裏のディップ・スイッチの設定の仕方を教えて ください。
スイッチ1と2は左のチャンネルの設定、3と4は右のチャンネルの設定で、2個のスイッチの独立したペアです。ペアの左のスイッチはオーヴァードライブ(上)とクリーン(下)の切り替えです。ペアの右のスイッチは、ディストーションモード(上)と通常のモードの切り替えです。
26)King of Toneを使うにあたってオススメのセッティングはありますか?
推奨設定は、出荷状態であるON,OFF,OFF,OFFであり、右のチャンネルがオーヴァードライブで左のチャンネルがクリーンブーストになります。この方法では、両方を同時にONにした場合、オーヴァードライブチャンネルをくぐった音にクリーンブーストがかけられるので、それぞれのチャンネルの特性を活かしながら、実際の演奏に適した使いこなしができるのです。
27)King of Toneはどんどん進化しています。最新モデルが完成系なのでしょうか。それともまだ進化する予定なのでしょうか?
既に完成系であると言えると思います。アメリカンオーヴァードライブサウンドを実にうまく出せるとともに、2つの独立したチャンネルによる卓越した柔軟性を兼ね備えていると思います。今後我々は、よりリード演奏に向いた真のディストーションペダルを作ることを目指します。このペダルとKing of Toneを組み合わせれば、新しい音の領域を得ることが可能となります。
28)オーヴァードライヴ・ペダルを開発するにあたって、現在では2つの流れがあると思います。1つはハイ・クオリティなTSサウンドを目指すもの、もう1つは楽器、特にアンプの良さ徹底的に引き出そうとするもの。アナログマン製品は後者だと感じました。しかも、過度な味付けをしないように心がけているように感じました。いかがでしょうか?あなたのエフェクト作りにおけるポリシーとは?
我々は、チューブ・スクリーマーをベースにした実に多くのペダルが人気であったにもかかわらず、チューブ・スクリーマーとは異なるものを目指してKing of Toneの開発を行いました。我々は、チューブ・スクリーマーほど音に味がついてしまわないようなペダルが作りたかったのです。過剰な音の変化や味付けを避けるとの基本方針は、我々の全てのペダルにおいて共通のものです。また我々は、チューブ・スクリーマーに関する種々のモディファイ方法を開発済みであり、市販品に追従するものがないほどの音のグレードと音の可変機能を与える手法を既に実現できていました。このため、新たにチューブ・スクリーマーをベースとしたペダルを自作する必然性もなくなっていたというのもあります。例えば、音を可変するタイプのチューブ・スクリーマーとしては、我々にはTS-9DXのモードモディファイがあります。我々の目指す音の方向性は、確かに過度の味付けをしない方向にあると思います。このために我々は、JRC4558Dに代表される日本製の部品で得られる音をうまく活用し、より良い音を追求する方向性を持っています。こういった目的のため、"オンライン秋葉原"とも呼べるRE-Jさんは、彼自身の独立した活動としてRE-J Projectの名前でモディファイを提供しながら、AnalogManペダルの音の維持改良に関する適切な助言、 ペダルのチューニング全般に必要な特別な日本製部品類の提案・供給、King of Toneのような新しいペダルを開発する際の音と機能の改良に関する協力、新しく斬新な音を得るための貴重なアイディアの提供などをしてくれています。
訳注:2002年の開発からこれまで、先進的なチューブスクリーマーと言う説明でTS-9/808/Silverを紹介してきました。我々が開発当初に意識したペダルは先進的なオーバードライブKLONだけであり、KLONとの比較においてTS-9/808/Silverならではの濁らない音の個性が音色・響きを重視するタイプのプレイヤーに支持を得てきたように思います。しかし意外なことに、多くのオリジナルTS-808愛用者にとってTS-9/808/Silverは、彼の愛用のTS-808の音のイメージをそのままに、ほんのちょっと音を拡張したものなのだそうです。きらびやかでストレスの無い澄んだ高音と、ロスが少なく弦のヒットに即座に反応する低音、ただそれだけが加わったTS-808の音、それがTS-9/808/Silverから得られるのだと言います。 最近では、復刻ブームに従ってJRC4558Dをあえて実装してリリースされる市販品も増えているのですが、オリジナルTS-808の音を魅力的にしている音の要素が欠如したままであることには変わりなく、新しい音への挑戦とは思えないのが残念です。『温故知新』を旨とする私とAnalogMan/Mikeさんは、常に古いペダルの「良さ」を分析し、その良さを基本的に実現した上で、さらに少し改良したペダルを目指しています。『Improved Vintage Sound』改良されたヴィンテージサウンドという概念は、ただの復刻でなく、目新しく派手なものでなく、時代を超えて愛されるペダルが備えるべき絶対条件であると考えています。
29)エフェクターの開発、特にオーヴァードライヴの開発に関して一番重要なことは何でしょうか?
我々は、プロの演奏家がこのペダルは特別な魅力があるなあと感じてくれるようなもの、しかしながら誰でもが演奏を楽しむために使える、そういったオーヴァードライブ・ペダルを製作したいと思っています。そうなるためには、オーヴァードライブ・ペダルを使っているような感覚を与えず、あなたの実際のギターとアンプが鳴っているかのような感覚を持つものでなければならないと思っています。
訳注:優れた演奏家にとって大事なのは『音』、それだけでなくその音からリアルタイムに導きだされる『クールなフレーズ』です。どんな貴重な部品を搭載したかとか、どれほど苦労をして作り出した回路であるかなど全く関係ありません。無言で手渡したペダルに対する彼らからの答えはシンプル、首をかしげるか、笑顔で延々と弾き続けてくれるか、本当にただそれだけなのです。
30)優れたオーヴァードライヴ・ペダルの条件とは?
暖かで滑らかな音、過度の低音がなく、過度にきつい高音もなく、力強くしかし過剰な中音域がなく、使いやすいドライブとトーンコントロールを有し、アンプを鳴らし切るために充分な出力レベルを持つものです。
訳注:言葉で書くとすごいですね。妥協なく実現するには、さらにその良い音を維持し続けるためには、多大なる苦労があります。
31)あなたが思い浮かべる理想のギター・サウンドとはどういうものでしょう?
David Gilmourの音、Duane Allmanのライブで聴けるハーモニクスが豊かで太い音、Jimmy Pageがレコーディングで駆使したイコライジングのかかった音、Tony Iommiのぶ厚い音、これらを全てミックスした音です。これらの全ての音を自分のペダルボードに収めたいですねえ!
訳注:私は、Jimi Hendrixの「Electric Ladyland」「Axis: Bold as Love」で聞ける骨太のストラトサウンド、Jeff Beckの「Blow By Blow」「Wired」で聞ける多彩なエフェクト音、VAN HALENのファーストアルバムで聞けるクールなロックギターサウンド、これら全てを手に入れたいですねえ!
32)今後こういうペダルを作ってみたいという夢があれば教えてください。
今の夢はディストーションペダルを完成させることです。また、数年前に手がけた高機能なアナログディレイを完成させることも夢なのですが、現在市販されている唯一のBBD、中国製のものでは音に納得できなかったため、このペダルは本棚に放りこまれたままになっており、これを完成させることは今ではとても難しい状況になっています。我々は、良い音のする日本製BBDの入手と、良いBBDが搭載されたシンプルなアナログディレイの企画の両方にチャレンジしています。良い音を開発・維持するためには部品探しから始めねばならず、夢を実現するのは本当に骨の折れることです。
訳注:AnalogManオリジナルのディストーションペダルですが、いわゆる音をつぶしてしまうタイプではなく、Marshallのような野太い歪みから、鮮明で強力なクリーンブーストまでを実現する守備範囲の広いペダルです。賢い歪みペダルと考えていただければ妥当です。後半にあるシンプルなアナログディレイですが、AR20DL/Pro+としてリリースされることになります。